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【映画・書籍等の紹介、評論】
ALWAYS続・三丁目の夕日 【本・映画等の紹介、評論】

ALWAYS 続・三丁目の夕日

― よく練られた台本だが ―


『ALWAYS 三丁目の夕日』が大成功≠オ、続編を望む声が大きかったことは想像に難くないが、私としては前作で止めておいてほしかった作品。しかし作られてしまった以上観に行かないわけにはいかないだろう。さて、結果は……

◆ この広い空の下で

 今回の物語の主軸は、茶川竜之介(吉岡秀隆)の一念発起だ。「淳之介が人並みの暮らしをしていないという確証を得たら、その時は今度こそ連れて帰りますよ」と迫る川渕康成(小日向文世)に対し、茶川は養える≠アとを証明するため再び芥川賞を目指すことになる。三丁目の人々はそんな彼の夢を熱烈に応援。苦労の末に書きあがった小説は芥川賞の最終候補に選ばれる。

 皆の期待が膨らむ中、ある日飲み屋に「本当は茶川さんのような小説こそ芥川賞を取るべきなんだ」と強烈に残念がる一人の男が現れた。事情を聞くと、彼は選考委員の一人なのだが、「このままではどうしても受賞は難しい」と言うのだ……。

 物語のもう一つの大きな軸は子どもたちの成長だろう。この点は新たな登場人物である鈴木美加(小池彩夢)の変化によって描かれる。彼女は鈴木則文(堤真一)の親戚で、父親が事業に失敗したためしばらく鈴木家で預かってもらうのだが、贅沢な家庭に育った美加は我がままが身についていて皆の優しい気遣いにも不平不満を漏らす。ある意味、昭和中期の環境に現代の子どもを放り込んだようなミスマッチだ。

 しかし近所の子ども達が積極的に家の手伝いをする様子を見て次第に美加の立ち居振る舞いが変ってくる。昔、誰もが生活の中で当たり前に育っていた社会が今は失われようとしている、という象徴だろうか。

◆ 夕日が照らすのは

「三丁目」の2作はある意味テーマははっきりしている。「お金より大事なものがある」ということだ。しかしこれを台詞として言ってしまうと、語りすぎで映画としての広がりが持てないのではないか。

 テーマは秘すれば華。この続編が、台本としては前作より練れているにも関わらず、感動という点で前作を超えることができなかったのは、この決着のつけすぎ≠ニいう点にあるのだろう。前作は登場人物それぞれの行く末と観客一人ひとりの人生を重ね得るのりしろ≠ェ大きく設けてあったが、続編ではその面積は極めて少ないのだ。

 それでも随所に見応えがあったのはやはり昭和中期の人々の人情味と、溌剌とした気風が背景にあるからだろう。夕日色の映像に込められたこれらの背景は、二度と取り戻せない珠玉の宝だ。しかし今の自分にとって重要なのは、二度とこうした宝を取り戻すことはできない≠ニいうノスタルジーではない。時は過ぎ行くもの。問題は今だ。夕日を背景に、あの頃とは違う新たな宝を生み出す努力が欠けているのではないか、という今の問い≠アそが重要なのだ。

 そしてこの努力というものも、世直し≠ニいう大上段に構えた内容でなくても良い。「大人になって、おねいさんみたいなきれいなおねいさんと、いっぱいいっぱいお付き合いしたい」(モーレツ!オトナ帝国の逆襲)というクレヨンしんちゃんの名言のような下段に構えた内容であっても良い。夕日が照らすのは、過去を全て受け入れて、明日を創造してゆく今の自分≠ナある。努力する者にとって、夕日は常に希望色をしている。

公開:
2007年11月
監督・脚本・VFX
山崎貴
脚本
山崎貴、古沢良太
エグゼクティブ・プロデューサー:
安部秀司、奥田誠治
原作:
西岸良平
音楽:
佐藤直紀
出演:
吉岡秀隆、堤真一、小雪、堀北真希、もたいまさこ、三浦友和、薬師丸ひろ子、須賀健太、小清水一揮、小日向文世 他
物語(公式サイトより)
昭和34年春――東京オリンピックの開催が決定し、日本が高度経済成長時代に足を踏み入れることになるこの年――。黙って去って行ったヒロミを想い続けながら、淳之介と暮らしていた茶川のもとに、川渕が再び淳之介を連れ戻しにやって来ました。淳之介に対する茶川の強い思いを知り、一旦はあきらめた川渕ですが、「淳之介が人並みの暮らしをしていないという確証を得たら、その時は今度こそ連れて帰りますよ」と言い残して去っていきます。

一方、鈴木オートでは、六子も一人前に仕事をこなせるようになり、順調に取引先が拡大し始めていました。そんなある日、鈴木家に新しい家族が加わります。則文の親戚・鈴木大作が事業に失敗したため、その娘の美加(小池彩夢)をしばらく預かることになったのです。一平はちょっぴり反発するものの、美加を温かく迎え入れる則文、トモエ、六子。しかしお嬢様育ちの美加は、お手伝いさんのいない生活に少々戸惑い気味。
 六子は、一緒に上京してきた幼なじみの中山武雄(浅利陽介)と偶然再会。その場に居合わせたタバコ屋のキン(もたいかさこ)に冷やかされ、まんざらでもない様子です。そして、もう一度狸に化かされたいと願っている宅間先生(三浦友和)は、神社の脇道で焼き鳥を振っているのでした。

夏――東大の同窓会に出かけた茶川は、同窓生たちにバカにされ、傷心え引き返して来ます。家に帰った茶川を待っていたのは、淳之介が給食を我慢していたことを知り、いたたまれない気持ちになる茶川。
 一方、ヒロミの居場所を知った則文は、煮え切らない態度の茶川を無理やり引き連れて、ヒロミが働くゴールデン座へ向かいます。しかし、ふたりがそこで目撃したのは、金持ちの旦那に結婚を迫られているヒロミの姿でした。さらに、給食費の件を知った川渕からは、淳之介を手放すよう迫られ、追い詰められた茶川は、淳之介を養っていけると証明するため、そして一人前の作家になってヒロミを迎えにいくために、一度はあきらめていた芥川賞受賞≠フ夢に向かって再び純文学の執筆を始めます。

秋――おめかしして銀座に出かけるトモエ、六子、一平、美加。茶川が執筆している間、鈴木オートで暮らすことになった淳之介は、則文と一緒にお留守番です。六子は一緒に上京してきた初子とすえに久しぶりに再会し、映画館へ。そうとは知らない武雄は、六子がデートに行った勘違いし、ショックを受けている様子。
 一方、茶川商店では、ついに小説を書き上げた茶川が、表紙にタイトルを書き入れます。則文に手ごたえを聞かれ、「わからん……」と答える茶川。しかし、その表情は晴れやかで……。

冬――茶川商店の前にたくさんの記者がやって来て、三丁目は大騒ぎ。茶川の小説が、芥川賞の候補に選ばれたのです。発表の日、「一番嬉しいときに、誰に隣にいてほしい?」という則文の言葉に後押しされ、則文の車でゴールデン座に向かう茶川。しかし、時すでに遅し。ヒロミはお金持ちとの結婚を決め、踊り子を辞めてしまっていました。ちょどその頃……ヒロミは茶川商店にいました。喜び、はしゃぐ淳之介。しかしピロミはライスカレーを作ると、茶川の帰りを待たずどこかに消えてしまい……。
 鈴木オートに、大作から電話がかかってきました。美加が三丁目を去る日が近づいてきたようです。美加とすっかり仲良くなった一平は複雑な気持ちで……。
 果たして、茶川は芥川賞を取り、淳之介と暮らすことができるのでしょうか。茶川とヒロミ、六子と武雄、一平と美加の恋の行方は? そして、三丁目の人々には、どんな未来が待っているのでしょうか。

[Shinsui]


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