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【映画・書籍等の紹介、評論】

ハンコック

暴走国家アメリカの自画像?


◆ 暴走は映画の中だけに

<パワー過剰でアルコール依存症のヒーロー「ジョン・ハンコック」をウィル・スミスが演じる>
 こうした設定が面白いだけのB級映画かと思って見に行くと……その通り、ただ設定が面白いだけのB級映画だった。

 CGが凄いとか、視覚効果が斬新だとか、後半にどんでん返しがあるとか、そうしたこと全ては想定の範囲内(死語?)で今さら驚きはしない。ついでに、ヒーローの行動が実際には傍迷惑であることは既に『空想科学読本』で知っていたし、『MR.インクレディブル』の方が訴訟国家への風刺が効いていてパロディーとしては一枚上だろう。

 それでもなおこの映画に魅力を感じるのは、今のアメリカの自画像的な作品だからだ。

 衰えたとはいえアメリカはいまだ超大国であり、何よりも軍事力は他国を圧倒している。ひとたび軍事介入すれば、そのスーパーパワーが炸裂して敵を難なくぶっ潰すことが可能だ。ところがそのパワーを統括しコントロールすべきドンが酩酊状態では傍迷惑この上ない。

 アフガンの民衆もイラクの民衆も、アメリカに感謝するどころかクソ野郎≠ニ罵っている。何とか正義のヒーロー≠ニして返り咲き、尊敬されていたあの日に帰りたい―― こうした境遇と心境が下地にあるためハンコックは皆の共感、特にアメリカ人の共感を得るのだろう。

 一度失った好感度を上げることは中々難しいが、アメリカには「せいぜい頑張ってください」とエールを送ろう(上から目線だが)。今後は暴走などしている暇も余裕もないだろうからだ。ただこれは他人ごとではない。「あなたとは違う」けど、日本の小さなドンたちはこのところ事実上「失踪」状態に陥っている。

 暴走も失踪も実に危険で始末が悪い。私たちは権力者や他人に対して安易なヒーロー像など求めず、まず自らの人生を誠実に歩んだ上で、他人もまた誠実であらんことを願い求めてゆこう。

公開:
2008年7月(日本では8月)
監督:
ピーター・バーグ
製作総指揮:
イアン・ブライス、ジョナサン・モストウ、リチャード・サパースタイン
製作:
アキバ・ゴールズマン、マイケル・マン、ウィル・スミス、ジェームズ・ラシター
脚本:
ビンセント・ノー、ビンス・ギリガン
美術:
ニール・スピサック
視覚効果:
ジョン・ダイクストラ
撮影
トラビス・シュリッスラー
音楽:
ジョン・パウエル
出演:
ウィル・スミス、シャーリーズ・セロン、ジェイソン・ベイトマン、ジェイ・ヘッド、エディ・マーサン  他
[Shinsui]


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