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【映画・書籍等の紹介、評論】

ドラゴンボール エヴォリューション

実写映画化でやってはいけない≠アと


反面教師として見よう

 あなたは日本漫画の金字塔「ドラゴンボール」を原作としたハリウッド版実写映画「DRAGONBALL EVOLUTION」を既に見ただろうか。見ていないのなら残念だ。あなたはまだ「最悪」の何たるかを知らないから。

◆ あの「ドラゴンボール」が何故?

 原作の「ドラゴンボール」は今さら言うまでもない、日本のみならず世界中にファンを持つ人気漫画であり、アニメ化によりさらに爆発的なヒットとなった作品である。これがハリウッドで実写映画になる≠ニ聞けば、多少の懸念はあるがいやが上にも期待は高まっていた。そこにこの映画の封切りである。

 おそらく観客は、この辺りまでは実写だから我慢しよう=c…ここからは盛り上がると思うゾ=c…いや、だけど最後には凄いシーンが待っているはずだ=c…と、次々期待を引き伸ばされ、裏切られ、最後にはテレビのお笑い番組でも見ているようなシーンでエンディングを迎えることになる。そして皆、呆然[ぼうぜん]とした表情でこう問うのだ、何故だ!≠ニ。そして、どこか一箇所でも面白い場面があったのだろうか?≠ニ首を[]しげながら家路にむかうのだ。

◆ 失敗の原因を分析

 誤解してもらっては困るが、私は皮肉屋ではない。アップする際は、極力自分自身も楽しめ、皆にもお勧めの作品を紹介しているつもりだ。また、面白くても作品の意図に賛同できない時は投稿を見送っている。そういう意味ではこの「ドラゴンボール エヴォリューション」は紹介する必要は全くないのだが、想像以上に[ひど]い仕上がりなので、逆にどうしてこんな失敗作になってしまったのか≠明らかにし、漫画・アニメの実写映画化の際の参考にしていただきたいと思う(上から目線)。

原作の魅力がどこにあるかを見極めよ。
漫画やアニメの自由度に比べると、実写版には何かと制限がついて回る。膨大なシリーズを2時間前後に凝縮させるには無理があるし、原作ファンのチェックも厳しい。この問題を解決するには、原作の魅力がどこにあるかを見極める必要がある。ではドラゴンボールの魅力は何か。それは、圧倒的な明るさと高揚感≠ナある。背景となる世界も、設定としては暗い部分はあるし、戦闘シーンには暴力的なところもあるが、不思議と嫌な気分にはならない。どの放送を見ても飽きないし、気分が高揚するように作られている。実写化の際には、この原作の魅力だけは崩してほしくなかったが、残念ながら見ていて開放感はなく高揚感など微塵もなかった。最初から最後までどことなく暗く重く陰鬱だったのだ。これが失敗の最大の原因である。
主人公の性格だけは変更するな。
先の問題にも関連するのだが、原作の魅力の半分は主人公の性格に依っている。設定や背景が多少変化しても、主人公のキャラクターさえしっかり確立していれば原作の魅力は引き継がれることになる。ドラゴンボールの主人公「悟空」は本来どういう性格だったか。思い返してみれば、徹底的に無邪気で前向きで明朗闊達[めいろうかったつ]、友を信頼し優しく包容力もあるゆえ、かつてのライバルたちも次々と悟空になびくほどである。ドラゴンボールは戦闘シーンも多いが、奥底に流れているのは悟空の愛情あふれる努力と信頼による結びつきである。だからこそ見ていて楽しいし、漫画もアニメも世界的ヒットを放ったのだが、今回の実写映画の悟空にはそうした度量の大きさと快活さは見られない。
ここまでやるか≠ニいうこだわりが必要。
原作の魅力がどこにあるかを見極め、主人公の性格を引き継いだとしても、実写映画として成功するためには、漫画やアニメにはない何か≠プラスしなくてはならない。そのためにはここまでやるか≠ニいうこだわりが必要で、ドラゴンボールの場合はアクション・シーンを徹底的に充実させる必要があったのではないかと思う。漫画やアニメでは、どんなに凄い場面が描かれていても文字通り絵空事[えそらごと]である。これをできる限り実写で撮ることにこだわっていればカンフーの魅力も加えることができたが、今回のアクションはお世辞にも一流とは言えない。カンフーごっこ£度で、これを補うべくCGも多用されたようだが、そのCGもありきたりでお粗末。はっきり言って全体的にスカスカ≠ネのである。

 失敗の原因は他にも沢山あるだろうが、要約すれば以上の3点である。エンディングを見ると、20世紀フォックスとしては続編をつくりたがっているようだが、もうかんべんしてほしい。現場に熱意がない以上、どれだけ金をつぎ込んでも良い映画はできないからだ。悪夢は一度で十分である。

公開:
2009年3月
監督:
ジェームズ・ウォン
脚本:
ベン・ラムジー
製作:
チャウ・シンチー
製作総指揮:
ティム・ヴァン・レリム
撮影監督
ロバート・マクラクラン,ASC/CSC
音楽:
ブライアン・テイラー
出演:
ジャスティン・チャットウィン/エミー・ロッサム/チャウ・ユンファ/ジェームズ・マースターズ/ジェイミー・チャン/ジューン・パーク/田村英里子/ランダル・ダク・キム 他
原作:
鳥山 明
[Shinsui]


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