平成アーカイブス


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【映画・書籍等の紹介、評論】

ドラえもん「のび太の宇宙漂流記」

見習ってほしい理屈抜きのエンタテーメント

平成11年3月公開

 もし100年以上後にもまだ“教科書”というものがあったなら、昭和から平成にかけての日本文化で真っ先に掲載されるのは――掲載されなければならないのは、『漫画』『アニメ』文化であろう。この文化なくして現代日本は語れない。そしてその筆頭に挙げられるのは、この『ドラえもん』である。

 TV、映画デビュー20周年記念となった作品『のび太の宇宙漂流記』は、集大成とするには技術的にもの足りないし、ストーリーもこのシリーズの中では、飛び抜けて優れている訳ではない(おそらく最高傑作は『のび太と竜の騎士/1987年』だろう)が、それでも随所に映画版ならではの面白さが見られる。

 日本の映画界が、こうした理屈抜きのエンタテーメントをもっと取り入れていたら、今ほど邦画の観客動員数は減らず、ハリウッドに並ぶ映画輸出国となっていただろう。(そーかなー、という声もあるが・・・)

◆映画の見どころ(大人はこう見る)

「ドラえもん」は常識では“子供の見るもの”となっているが、実は大人が見ても充分に面白い。むしろ子供には読み取れないところを深読みすることで、面白さは倍増する。
 たとえば――

  1. 徹底的な冒険映画であることを楽しもう。
     難しい理屈も理由もない。22世紀のバーチャルゲーム『スター・クラッシュ』で遊んでいたジャイアンとスネ夫が唐突に本物の宇宙人にさらわれる。それを追うドラえもんと、のび太くんと、しずかちゃん。“宇宙へ行く”なんてのは、実際には相当の訓練と覚悟が要ると思うのだが、彼らの向こう見ずな勇気にはいつも感服する。しかもシートベルト無しである。そのうち警察から指導があるかも知れない。

  2. しずかちゃんの・・・
     なぜか映画シリーズでもTV版でも、ちょくちょく出てくる“しずかちゃんの入浴シーン”。「お約束」という点でかつての水戸黄門の由実かおると双璧をなすが、当回は無重力で球状になった水に入るというすぐれもの。それにしても宇宙人の用意した風呂に平気で入る彼女の図太い神経には恐れ入る。

  3. 使えない『どこでもドア』
     ドラえもんの道具は、毎度都合よく危機を乗り越えるアイテムとなる。しかし「まるで道具にあわせて危機が訪れるようだ」などと言ってはいけない。道具の中で最も有名で便利なのが『どこでもドア』だが、これがまともに使われたのでは、冒険も危険度がぐっと減ってしまう。そのため、映画版ではよくこのドアが使えなくなる、という危機を設定する。今回は遠くに行き過ぎた(ワープなしで地球まで1億年以上かかる遠さ)という設定で危機を迎える。

  4. ちょっとしたパロディー
     惑星ソラリスを想わせる霧の星に降り立った一行は、地球そっくりの幻想世界にもてあそばれる。しかし100点満点の答案用紙を受け取って幻と気付くところは、のび太くんの日頃の不精進が功を奏した形となる。

  5. 敵は強敵(?)アンゴルモア
     だいたい小学生に撃ち落とされるような“バトルシップ”で、地球の乗っ取りを計れるのだろうか、どこかの国の軍隊相手じゃあるまいし――とも思うのだが、敵はとりあえずN氏の予言で「地球を滅ぼす大王」とされているアンゴルモア(1999年7月に恐怖の大王が来て復活させるとか支配するとか…)である。あなおそろしやである。何となく☆ウォーズの皇帝とねずみ男を足したような奴だが、決戦の結果は見てのお楽しみとしよう・・・負ける訳ないって? それを言っちゃーいけません。

◆入る時の恥ずかしさを克服するために

 さて物語を“はすに見る”だけでは醍醐味は味わえない。とにかく天下の『ドラえもん』である。クイタンだってアトヅケだって、何だってありの設定で、それなりの理屈が通れば、後は想像力が翼を広げるのを待てば良い。大いに笑って大いに感動しよう。何たって勉強も出来ないのび太くんが地球を救うのである。ロードショーなら、そののび太くんが、しずかちゃんと結婚するという、世にも不思議な物語の真相が『のび太の結婚前夜』で明らかになる。これなどは大人の方が涙を流すようになっている。

 ただ最後に残された問題は、映画館に入る時の恥ずかしさを克服することである。
この解決のためには――

  1. 子どもを授かって一緒に入る
  2. 子どものふりをする
  3. 他人の子どもをあずかる。
  4. 世間の目を気にしない。
  5. 「ドラえもん研究会」というステッカーを胸に付けてムツカシソーな顔をしてメモ帳を持って入る。

くらいが考えられるが、何といっても、面白い映画に対して文化的に正当な評価をし、映画館を寝室に変えるような“難解で一人よがりで評論家に評価されることしか考えていない映画”を、のさばらせない事が第一だろう。

[Shinsui]


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