平成アーカイブス  <旧コラムや本・映画の感想など>

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【本・映画等の紹介、評論】

B型自分の説明書

Jamais Jamais(じゃめ じゃめ)著/文芸社

流れの面白さは一級品

 またしてもB型

 本屋で突然、妻がケタケタケタと笑いはじめた。
「これ、あるある。H(長男の名)はこの通りだわ」、そう言って一冊の本を私の前に差し出した。「当然あなたもよ」と付け足して。
 タイトル名を見て私はまたか≠ニため息をついた。
『B型自分の説明書』……見なくても内容は大体推測できる。血液型で分類するとB型は、自分勝手で天邪鬼[アマノジャク]。集団行動が苦手で、よく言えば個性的だが変人が多い。興味があることには熱中するが興味が無いと見向きもしない、等々以前から耳にたこができる程聞かされてきたことが書いてあるのだろう。
 ちなみに我が家は親子4人中3人がB型で、ひとりO型の妻はいつもB型の行動は予測不能≠ニ嘆いている。

 本を購入した妻から「あなたも読む?」と訊かれたが、私は全く興味ないと応えておいた。今さら血液型による性格分析でもあるまい。自分は自分の性格はよく承知しているし、未承知の部分も内省すれば理解できるだろう。それに、私はB型ですから皆さん気をつけてお付きあい下さい≠ネんて言っても失笑を買うだけだ。
 その後も「あ、これも当たってる!」、「これもそうだ!」という妻の笑い声を背にしながら右から左に受け流していた私であったが、ある日、妻の友人が我が家にやってきてその本が話題になった時のこと。
「専門家に言わせると、血液型で性格を4つに分けるなんて全く無意味だそうですよ」、という話を聞いて風向きが変わった。私の中で俄然[ガゼン]反発心がわいてきたのだ。

 私は「専門家」という肩書きは全く信用しないことにしている。自分の目や五感で確かめたことしか納得しないのだ。血液型分析の真偽も、専門家が専門家独自のご立派な論理で断じても、論理自体が間違っている場合もあるし、別の論理を見逃している可能性だって高いはずだ。
 それならばまずその本を読んでみようと思い妻に尋ねると「ひとに貸した」と言う。「貸した相手の夫もB型だから」なのだそうだ。そこで新たに本を買って読むと、分析の主軸は従来通りだが、追求の仕方が個性的で面白いことに気づいた。ただそれだけに、少し暴走気味というか、妄想気味なのが目立つ。たとえば――

□ 道歩いてるとき、人のためによけたくない。
□ あいにく「ゆずり合い精神」は持ち合わせておりません。お前がどきなさい。
□ と思いながら、自分がよける。クソ! この足がっ。

□ まわりがやる気満々だとやる気しない
□ まわりがやる気がないと、がぜんやる気

□ 欠点を指摘されて一応悩んでみるけど、直す気はさらさらナイ。

等と書いてあるが、こうした心理はB型でなくても経験することだろう。しかし話の流れは実に面白い。

 血液型分析は迷信か?

 ところで、ご存知のとおり浄土真宗では迷信排除の姿勢が徹底している。
「かなしきかなや道俗の 良時・吉日えらばしめ 天神・地祇をあがめつつ 卜占祭祀つとめとす」という『正像末和讃』(101)の悲嘆文はよく知られた和讃だ。道理に合わないものを道理とすれば道を誤ることは必然だろう。
 ならば、血液型による性格分析について、多少は道理があるのか全く無いのかだけははっきりさせてほしいと思う。先に書いたように、専門家はこれを完全黙殺しているが、一般人は「当たっている」という、この断絶状態はあまり好ましくないからだ。何らかの裏づけが取れれば「それなりの参考意見」として腹に留めておくことができるし、全く裏づけが取れなければ迷信として排除すれば良い。

 では、どうやって真偽を確かめればよいのか。
 簡単なことだ。理屈を言う前に「実験」をすればよいのだ。世間でこれだけ信じられている件に関して、今まで大掛かりな実験をしてこなかったことが私には不思議に思える。実験の方法だってそれほど難しくないはずだ。それは――親も含め自分の血液型を全く知らない人たちを多く集め、既存の血液型分析方法を用いて予測を立てて検証する。この予測と結果が統計上意味ある数値であれば「何らかの道理はある」と結論づけられ、そうでなければ迷信として斥[しりぞ]ける。
 もちろん、もし「道理あり」となっても人間はたった4種類に分けられるはずもなく、「人類の数だけ性格がある」という前提は忘れてはなるまい。さらには、自分の性格は自分で創りだしてゆくものとも言える。しかしまずは専門家と一般大衆の溝を埋める実験をすべきだと思うがいかがだろうか。
 なお筆者じゃめ じゃめ≠ウんは、この本がバカ売れしたため図に乗って類似本『A型自分の説明書』も書いたそうだが、当然あと2冊は出すのだろう。読者は自分の欠点を血液型のせいにできる特典がつくので、しばらくは言い訳人間≠ェ増えることが予想される。

と、ここまで文章を書いて数日後、私が新たに本を買ったことに気づいた妻は「興味ないって言ってたじゃない! なぜまた買ったの?」と不審がった。
 こうなるとどうも雲行きが怪しい≠ニ解るが、「確かめるために買ってきた」と正直に言うと、妻は「前のは貸してあるだけなのに、もったいない!」と言われ、それに対して私は…………妻は…………と、やはりひと悶着[モンチャク]起こってしまった。そして予想通り最後にこの一言が――
「やっぱり、あなたはB型ね」

 そうですが、それが何か?

[Shinsui]


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